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スウェーデン飯盒 其之参

前回記事「スウェーデン飯盒 其之弐」からのつづき。

 

前出のページと、このページに「1848年に銅製、1895年にアルミ製が登場。第1次世界大戦中の
金属不足によりブリキで作られた後、1930年代中にステンレス製になってm/40が出来、コストの
理由で1944年に再びアルミ製になった。」というようなスウェーデン軍メスキットの変遷について
貴重な記述があるのでこれに基づいてネットを探ってみた。








まずは初期、銅製の物から。
 ※誠に恐縮ですが、今回も画像はネットから拾って来た物です。
 

これが1848年に登場した物かどうかは不明。蓋の上部にm/40のような段差は付いておらず、水平断面の
形が今のような楕円ではない。後側より前側の方が膨らみ具合が強く、全体的にも丸みを帯びた形である。
まだ吊り下げ用のフックが付いていない。
これ以前のスウェーデン軍メスキットがどのような物であったか分からないが、これも現在日本で
売られているスウェーデン飯盒のルーツのひとつと言えるだろう。



同じ銅製でもこちらは少々形が変わる。
   

   

下段1番左の写真は博物館に展示されている物で、説明の札にm/1838もしくはM1898と書かれて
いるように見える。字の写りが小さくハッキリ見えないので断定は出来ないが、1838年だとすると
「1848年に銅製登場」という記述と合わないのでm/1898が正解だろうか?
下段右から2番目の画像で分かるが、水平断面は長方円のようであり最初の物と比べるといささか角張った
形に変わっている。蓋はm/40のように飯盒の縁外側に被さるのではなく、縁が飯盒の内側に差込まれる
構造であるのが分かる。

最初の物はストラップを通すループが蓋のハンドルに直付けされているが、こちらは飯盒本体に取付け
られ、ハンドルに開けられた溝穴に通す事によってロック出来る構造に変わっている。
この型から他国軍のメスキットにはあまり見られない吊り下げ用のフックがワイヤーハンドルに
付けられている物があるが、蓋のハンドルに延長用の棒を差込むDリングはまだ付けられていない。
下段左から2番目の画像ではハンドルにDリングが付いているが、よく見るとハンドル取付け部が外れており
リベットの穴が蓋側と合っていないので、この後の型の物を合わせているだけと思われる。

この型から始まった吊り下げフックとロック構造がm/40へも引き継がれ、スウェーデン軍メスキットの
大きな特徴となっている事が良く分かる。以前から自分の飯盒を見ては「ここにストラップが通せそうだ」
と思っていたが、やはりこういう事だったのかと納得。
 ※下段一番右の写真内右端に写っている塗装された物は、この次に出るアルミ製の物。

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1910年〜
  

左の写真は前出のページにあるもので、制服の様式とも整合する事から1910というクレジットが年であり
写っているのは1895年登場のアルミ製と思われる。水平断面は銅製と同じ長方円のようにも見えるが
次で触れる兵式飯盒のような形かも知れない。蓋の被せ方は銅製の物とは違いm/40と同じようだ。
右の写真は1928年。 1916年導入の野戦炊事車で食事を作り配っている時の1コマであろう。
第一次世界大戦による影響でブリキ製の物が登場するとの事だが、それらしい写真を見つける
事は出来なかった。

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1930年代終わりから40年代にかけて。
   

   

この年代においても殆どの物が1895年登場のアルミ製と同型と思われ、多少スリムではあるが、水平
断面の形がドイツや日本の兵式飯盒にも見られる前側が凸・後側が凹のキドニーシェイプであるのが
よく分かる。
上段1番左の写真、長い木の棒に沢山の飯盒を掛けて焚火で食べ物を温めている様子が興味深い。
このような場合、ワイヤーハンドルに棒を通すよりもフックで吊るす方が便利である事が良く分かる。
また、蓋を食器代わりにしている兵士が何人かいるが、よく見るとハンドルが長くなっている物が
幾つかある。これはm/40のようなハンドル延長用のDリングがこの型から追加され、実際に棒などを
差込み焚火で食べ物を温めて使用したものと思われる。
少々見辛いが、下段一番右の写真でこの型にはハンドルにDリングが付いていたのが分かる。

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1950年前後と思われる写真。


ここでもまだ1940年に採用されたと言われるm/40のような形の物が見られない。
採用されてから軍全体に支給が行き渡るまでにはある程度の時間が掛かるのかも知れないが、約10年
経っても見られないのは少し遅過ぎる。そういうものなのだろうか?それともこの写真が1950年代で
あるというのが間違いなのか、あるいはm/40は1940年採用という情報が間違いなのか?
たった1枚の写真で判断するには難があるのだが、この年代の写真は他に見つからなかった。

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1963年。


この年代でようやくm/40を使っている写真を見ることが出来た。と言ってもやはり写真は1枚だが。
横たわった兵士の横に蓋が外されたステンレス製と思われる飯盒があり、その形状が楕円形である事
からm/40であると断定出来る。m/40の手前に透明なカップ、kasa m/51があるのが見える。

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1970〜1990年代
m/40とm/44混在で使われたと思われるが、写真など資料見つからず。

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2004年〜2008年
   

   

上段一番左の写真だけはいつ撮られた物か分からないが、M90迷彩服が1990年採用なのでそれ以降
なのは確かである。それ以外は2004年〜2008年の物で、ほぼ現在の状況と言っていいだろう。
着目すべきは全てがステンレス製ということである。近年の写真はこれら以外にもかなりの量が
見られたのだが、使用されていたのは全てステンレス製m/40であり、アルミ製のm/44を使用して
いると断定出来る写真は見つけられなかった。

少々珍しい動画を見つけた。 http://www.soldat.nu/images/filmen.mpg
どうやらスウェーデン陸軍の兵士募集CMらしいが、この中にもチラッとm/40が登場する。

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m/40のような「いかにも飯盒」といった物とは別に、トランギア社ストームクッカーに似た
スタイルの物を使っている写真も見られる。

   

  

Jägarkök(イェーガーコック?)と呼ばれるこのクックセットの正体は、オプティマス No.77もしくは
No.91 パープルフレームであろうか。 これらを最初見た時、これが最新のスウェーデン軍制式採用
メスキットなのかと思ってしまったが、どうやらこれはレンジャー部隊などに限定して支給されている
物らしい。採用年までは分からなかったが、1950年代のスウェーデン軍空挺隊の写真で似た物の使用が
確認出来る。(最後の写真)


他にはこのような物も。
   
左2枚の写真でクッカーの形状と五徳から「ミニトランギア」と思われる。
最早用途としてはフリーズドライレーションと温かい飲物の為の湯沸かし程度であろう。
流石に寒冷地では使い物にならないのか、アルコールストーブが液燃ストーブに替えられている。





Jägarkökは別として、スウェーデン軍において個人用のメスキットが採用された順番はm/40よりも
アルミ製m/44の方が後なのだが、近年の写真で使用が確認出来るのはm/40ばかりである。
そして、放出され市場に出回っている物は断然アルミ製m/44の方が多い。
これはやはり、何らかの理由によりm/44が廃止になってしまったと考えるのが筋だとは思うが
その理由が今ひとつハッキリ分からない。
一部に「アルミとアルツハイマー」の話を理由と考えた者もいたようだが、この話自体否定的な
見解もあり、現在までに因果関係も証明されておらずグレーゾーンのままなので眉唾である。
しかし、m/44が放出され始まった時期と、アルミによる健康被害が噂され始まった時期が重なれば
この噂にスウェーデン軍が踊らされてしまった可能性も・・・・・とは思ったのだが、そうなると
アルミ製であるJägarkökが現在も使われているのはおかしい。
結局、なぜアルミ製m/44が放出されたかという確かな理由にはまだ辿り着いていない。
もし、どなたか信頼出来る情報をお持ちなら、是非お教え頂きたいと切に願う。


祖父に銅製、父にアルミ製を持つステンレス製メスキットm/40の弟分として誕生したアルミ製m/44。
望まれたが故に生まれて来た筈なのに、何故か結局スウェーデン軍という家から追い出されてしまった
可哀想な子である。
しかし、その可哀想な子は生まれ持った魅力と才能により、日本のみならず世界中で養子として
受け入れられ、現在多くの人々に愛されているのである。


 おわり


※この記事は殆どネットで調べたものを元に書きました。だもんで不確かな情報や
 個人的な推測がてんこ盛りです。もしかしたら、間違ってる部分があるかも
 知れませんので、ここに書いた事が100%事実だと保証は出来ません。
 この方面お詳しい方、間違いにお気付きになられたら御指摘よろしくお願いします。

by swedishcooker | 2009-02-01 20:15 | ┗スウェーデン飯盒
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